ペストによるパンデミックは、第1回目は540年頃~東ローマ帝国で200年間、第2回目は1330年頃~モンゴル軍によってヨーロッパに持ちこまれて500年間、第3回目は1855年頃~100年間に渡ってインドを中心に世界中で続いた。1330年からの第2の流行は黒死病と呼ばれ、ようやく原因と一部の治療法が発見されたのは、第3の流行中1894年に北里柴三郎らによってであった。つまり、ペスト細菌と人類は1400年もの長期に渡って戦い統けてきたことになる。
一方、スペイン風邪は約100年前、1918年から2年間に渡って猛威をふるったインフルエンザウイルスで、感染者数は4分の1(5億人)以上、死者数は20分の1(1億人)以上、世界人口5%の犠牲を出した史上最悪のパンデミックであったともいわれる。しかし、その後は、天然痘ワクチンの発見を契機として、パスツールらによる各種ワクチンの開発で、毎年のように流行するインフルエンザウイルスにも備えることができるようになってきている。人類とインフルエンザとの戦いは、まだ100年目である。
Covid-19は細菌ではなく、原因がウイルスだと解明されている。歴史に学ぶのなら、細菌との戦いのように1000年以上も悩まされることはなさそうだ。だから、スペイン風邪のように第3波以降に収束し、その後はワクチンによる予防策の確立を期待したいものだが、RNA(1本螺旋)であるコロナウイルスは変異の速度は、インフルエンザのDNA(2本螺旋)ウイルスよりも速いらしい。今までのワクチンによる対策では追いつかない。どんなに変異したウイルスにも対応できる汎用(万能)ワクチンが必要なのだ。
どうも、過去の戦法を応用することはできず、100年~1000年の長期戦になりそうだ。最新の遺伝子工学を駆使して、iPS細胞から人工万能白血球を大量生産できるような研究成果を、じっくり待たなければならないのかもしれない。
さて、心配すればするほど「不安」のパンデミックに陥りそうだが、長い戦いにおいて、これこそ最も恐しい罠である。だからこそ、第2の北里博士が誕生することに「希望」を託したい。そのためには、直ぐに成果の出ていない研究分野への投資も大切である。未知の課題ゆえに、いつ、どの分野のどの研究から解決策(成果)が見つかるか分からないのである。青色LEDなどの偉大な発見が、どのように忍耐強く待った成果であるか思い出してみてほしい。
細菌やウイルスは100年~1000年単位の戦いを人類に仕掛けてきている。短期の成果主義に陥っている今だからこそ、過去の歴史に学ばなければならないのではないだろうか。
自然科学にしても、社会科学にしても、学術会議問題の核心は、その点にあるように思う。
(2020年11月26日@nortan)