栗はドングリの仲間なのだが、「ドン」よりも「イガ」を冠してイガグリと呼ばれることの方が多い。そのイガの中には、横一列に並んで3つのクリが入っている。そのため、真ん中のクリは平らで、両端のクリは外側が丸みをもっている。
下を向きながらイガクリを探していると、いろんなクリ三兄弟に出会う。三兄弟そろって同じ大きさに育っているものもあれば、左右の兄弟に迫されて真ん中が薄くなっているもの、真ん中が大きく育ち両側が痩せているものなどである。三兄弟それぞれの物語があるものだと感心させられた。
すると、クリが2つしか入っていないイガに出会った。よく見ると、端のクリが内側に薄くくっついている。ちゃんと3つあったことに安心したが、次のような物語が浮かんできた。
まだ、栗がドングリと呼ばれていた頃の話。3兄弟は、周囲のイガたちに応援されて育っていた。兄弟の名前はキシ・スシ・イシ。ところが、ある日、枝に止まったドン鳥が「ぼくは、イシが嫌いだ。彼だけは許さない。」と囁いた。イシを不人気にして、真ん中のスシを大きく育てようと考えたのだ。そうすれば、木から落ちた時、食べやすい真ん中のスシだけを上手く食べられるという企みである。悪口ははキシでも良かったが、キシまで小さくなってしまうと、今度は大きくなり過ぎたスシをクチバシで取り出すのが難しくなるのだ。
さて、ドン鳥の悪口を聞いたイガたちは、その理由を確かめもせずにイシを毛嫌いした。そして秋、スシはドン鳥の胃袋におさまり、イシは薄くイガの内皮にひっついたまま、キシも立派な木になるほど十分に育たず、いつしか山には栗の木が1本だけになってしまった。
ようやく、ドン鳥の企みと、3兄弟を平等に育てることの大切さに気づいたドングリは、名前から「ドン」を追い出してクリになった。しかし、自分の頭で考えずにドン鳥の企みに気づけないイガたちは、いつまでもイガみあっていたそうな…
最近、どこかで聞いたような話になってしまった。
(2020年9月15日@nortan)