図書館でふと手にした絵本。安房直子さんの作品。子ぎつねと主人公が織りなす物語。子ぎつねが人間に化けたことに気づかれながら進行するストーリーは、手袋を買いに(新美南吉)の世界観もリスペクトしている。帰り道に、主人公は子ぎつねに染めてもらった指の窓で、決して会うことのかなわない思い出人を覗き見る力を手に入れる。しかし、…と幻想的で「いのち」について考えさせられる作品。幼い頃の感覚、人間も動物も分け隔てしない感覚を思い出す。そして、せつない。
さて、きつねの窓に現れるのは、地上に存在しないものたち。そして、こちらをじっと見つめている。どこか障子紙に開いた穴から隣の部屋を覗いているような感覚。隣室の家族もそれに気づいている。私たちが、天上に存在して私たちを見守ってくれていると信じている世界。実は、紙1枚ほどの薄さを隔てて隣り合わせで存在しているにちがいないと思えてくる。
東京を離れる前に千鳥ヶ淵戦没者墓苑で胸に手を合わせた。若くしてフィリピン沖で散ったと聞く伯父に、父の旅立ちを報告した。もし、私にきつねの窓があれば、出征する前の兄の膝にちょこんと座ってあまえる男の子の姿が見えるのだろうか。(2019年3月23日@nortan子どもの頃、父の実家の土壁にあった零戦の落書きを、兄に教わったと聞いたことを何故か今思い出した。)