118、次世代の技術

太陽中心部の核融合で生まれた光が、太陽表面に到達するのに100万年。そして、地球に届くまで8分。私たちの世界を照らす太陽光は、100万年と8分前に太陽の中心で誕生した光子である。さらに、満月の反射光は地球到達に3秒ほどかかる。100万年と8分と3秒前の過去に誕生した光を夜空に見て、芭蕉は「名月や池をめぐりて夜もすがら」と詠み、蕪村は「菜の花や月は東に日は西に」と詠んだ。歌人たちは、日光と月光に『遠い過去』を感じていたのだろうか。

核融合技術のひとつでは、原子核を秒速100km以上で衝突させる。その時、光も誕生し、超高温状態となる。この熱エネルギーを利用して発電するのが、次世代原子力発電だ。現在の核分裂による発電とは違い、放射性核廃棄物は出ないクリーンな発電だという。(昔、どこかで聞いたキャッチフレーズだ。)しかし、水素の同位体であるトリチウム(自然にも存在し、半減期が短い)が多く生成され、自然水を汚染するという緩やかな心配や、レーザー核融合技術では突然できたブラックホールが地球を飲みこんでしまうという過激な心配もある。それでも、人類は22世紀にこの技術を実用化するだろう。太陽中心部でしか起こりえない、100万年と8分と3秒の技術を手に入れるのだ。

さて、「広い宇宙に地球人しか見当たらない50の理由」という本に、51番目の理由を発見したら教えてほしいと書かれていたと思う。そこで、「不十分な核技術を手に入れた文明は、自滅している。」という仮説はどうだろうか。万が一、自減せずに宇宙文明へと進歩した知的生命がいたとしても、地球にコンタクトをとらないのは、それを予見しているからかもしれない。クリーンなエネルギーを求めて、人類がクリーンされてしまっては元も子もない。歌人たちは、日光と月光に『儚い未来』を感じていたのかもしれない。(2018年11月3日@nortan)

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