79、言語的相対論

広辞苑の新版が10年ぶりに発刊され、「無茶ぶり」などの新語が約1万語も追加された。ベンジャミン・ウォーフが唱えた「言語的相対論」がその中に入っているかどうかは確かめていないが、これは『個人の思考は、個人の使える言語に左右される』という仮説である。例えば、虹の色。昔、初めて買ってもらったクレヨンで無邪気にお絵かきを楽しんでいた頃、藍も青も紫も区別できてなかったから「我輩の辞書に藍と紫はない!」とナポレオン気取りで5色だったろう。それが今では7色(赤燈黄緑青藍紫)。我輩の辞書に、藍色と紫色が加わった。ここ数年、ニュースで映される人権運動の虹は6色で、世界標準だ。日本の藍を世界の人権運動の辞書に加えてやりたいとも思う。青は藍より出でて藍より青し。常に文明は発展していく運命のようだが、愛だけでなく藍という伝統色も大切にしたい。

昔、小学校入学時に受けていたIQテスト(7才時点での知能指数)。その後の人生の豊かさと因果関係はないため、随分前に実施しなくなった。フランスでの追跡調査では、IQが高いと判定された子どもたちの50%もが学業に失敗したり社会的に苦しんだりしていたそうだ。結局、何の意味もない指数だから、クイズ番組で取り上げて楽しむくらいの利用価値しかなくなった。そこで新しく、社会的地位や成功は、「自己を理解し、自分の感情を正しくコントロールして、他者との社会的関係をうまく構築していくコミュニケーション能力」に相関があると、EQ(心の知能指数)やSQ(社会的知能)が注目されるようになった。新版にこのEQやSQが追加されたかどうかは知らないが、知った瞬間「自分のEQは?SQは?」と心配する思考が増えた。知らなければ良かったと思っても、我輩の辞書に追加されてしまった。「ナポレオン!今のは取り消せ!」おっと、これは「無茶ぶり」。あとは、健忘に期待するしかないが、増えた言葉の数だけ思考も進化(深化)したのだろうか。(2018年1月14日@nortan)

コメントを残す