64、自分探し

朝5時半、無人駅のホームのベンチ。藍色の空、蛍光灯の灯り、鳥たちの鳴き声、1人、2人と足音。遠くから踏切の音。「ピンポン、まもなく電車が来ます。」プシューとドアが開いて、近くの席に腰を下ろした。ドアが閉まると始まった乗客の会話。向かいには、単行本の文字を指で追うネクタイ姿の警備員。次の駅で傘を手に降りていった。彼女には日常なのだろう。次の駅で降りて、大阪行きの特急に乗り込んだ。窓の外のベンチには、競い合うようにおにぎりをほおばってお茶で流しこむ2人連れ。電車のアナウンスが流れる。日本語に続いて英語、中国語、ハングル。車窓から流れる街を眺め、時おり乗客のおしゃべりに気を取られる。スマホ画面上の時刻は6時38分。このまま周囲を観察しながら過ごせそうな気がする。こうやって五感に集中していると、旅に出た気分である。「自分探しの旅」とは「他者観察の旅」なのだろう。自分に自信がもてなくなった時、他者の中に自分と同じものを見つけることで一歩前進できるのだと思う。何日も旅に出られなくても、l時間の心の旅なら週末に実践できそうだ。(2017年10月30日@nortan出張先に向かう電車の中で)

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