59、ピーチ

ピーチとは桃でなくp値のことである。検定により(両集団に差はない)という帰無仮説を棄却し、本来証明したい対立仮説(差がある)を採択するための確率値である。設定した有意水準αを下回った時に、「両集団に差がある」と結論づけることが慣例となっている。αは0.05とされることが多いが、0.005にすべきという研究もあり、0に近いほど「差がある」ことになる。

最近、川を流れてきたピーチを拾い上げようとするおばあさんのACジャパンのTVコマーシャルがあった。「悪意ある声が、人の心を傷つけている。」とSNS炎上について問いかける内容となっている。しかし、悪意ある声とそうでないとされる声と、両集団に差はあるだろうか。おそらくp値は0.05を下回らないだろう。法律用語では、悪意は「知っていて」善意は「知らずに」と解される。ACジャパンが法律用語として使っているかは判断できないが、「悪意ある声」とはある意味「悪意となることを知らない『善意の声』」だと思う。現代的道徳からして、桃を自分の家に持ち帰ろうとするおばあさんを批判(注意)することは正義でありうるからだ。(勿論、どんな言葉でも投げつけてよい訳ではない。)ACジャパンのメッセージは「想像してみて下さい。あなたの批判、あなたの正義、人の心を傷つけていませんか。」と問いかけられた方がしっくりくる。最初から悪意ある者はほとんどないはずだ。つまり、自らの呟きが人を傷つけるかもしれないと「想像できる者」と「想像しない者」とのちがいがあるのだろう。人間は、チンパンジーと1.23%の遺伝子的差異しかないが、人間には豊かな想像力がある。ゆえに、SNSという社会的コミュニケーションを手に入れた私たちの想像力は、もっと思いやり深い大きなピーチ(桃)にならなければならない。約490万年前にチンパンジーと分岐したヒト。今、ホモサピエンス・イマジネスへ分岐と進化が始まっている。(2017年10月9日@nortan)

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