11、林檎の匂い

小津安次郎監督の東京物語(1953年)が、イギリスの雑誌で世界一の映画に認定された。その理由のひとつは、優しさを感じさせるから。調べると、アジア映画TOP10の1位にもなっている。このニュースに、昭和の懐しさを感じながら、銀河鉄道の夜(宮沢賢治)を鑑賞した。中学時代に文庫本で読み、最近2度下見して、3度目の落ちついた鑑賞。東京物語よりも古い戦前の昭和と賢治の世界。サザンクロスに向かう列車に乗車しているように感じた時、突然「りんごの匂いがしてきた。」…「何か幸せなのか分かりません。どんなつらいことでも、それが正しい道を歩む中でのことなら…。」のセリフが心の中に飛び込んできた。林檎の仄かな匂いを感じられる心境、それが幸せなのだと理解した。つまっていた左目の涙腺から涙が流れた。賢治とは別の時代を生きていると決めつけていたが、人の心は何も変わっていないのだ。人の無意識のしぐさ、左に目線を移すのは過去を思い起こしているのだそうだ。人生の折り返し地点を越えると、左を見ることも多くなるのだろう。最近、動画配信サービスで外国テレビドラマにハマっていた。パラレルワールドや未来へのタイムトラベル。予想もしない展開に娯楽性、仕事の疲れを癒してくれたが、日常逃避、右ばかりを見ていたかもしれない。人生の折り返し地点を越えたと実感する年齢。過去の自分と向き合うために、林檎をかじりながら東京物語も鑑賞してみようと思う。(2015年11月28日@nortan)

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