職業を別にもちながら、絵画を描いた19世紀~20世紀の画家を「素朴派」と呼ぶそうだ。アンリ・ルソーは、パリの税関職員でありながらの日曜画家だった。「眠るジプシー女」は中学生の頃、県立美術館で出合った記憶がある。有名な作品の多くは、絵に専念するために退職した50才代に描かれたものだ。ゴーギャンやピカソなど一部の画家に評価されたものの、広く評価されるようになったのは晩年だそうだ。先月、先輩が退職を契機に開かれた絵画個展に伺ってきた。当時から絵画制作の世界の話を聞かせてもらっては驚き、大学の講師枠にチャレンジしたことを聞いては、その志の高さに関心したことを思い出した。県立美術館の壁に展示された多くの作品の中で、当時の絵はどれですかと尋ねたら、そこには巨大なキャンバスに描かれた力強い山があった。日常の暗鬱としたものを晴らすために長野の山に一人登って打ち込んだ作品だそうだ。先輩の当時の年齢に追いついた私に「君も登ってこい。」と語りかけてくるが、麓にもおよばない。せめて、己の前に立ちはだかる壁を乗り越える力となるよう、その絵を瞼に残して館を後にした。20年前、目の前の壁に自己流で挑もうとしていた私に「来年は、一緒にやろう。」と温かい声をかけてくれた。その素朴な一言が、壁に負けない力となった。ルソーの「猿のいる熱帯の森」を鑑賞しながら、先輩も素朴派であったと感謝の気持ちが込み上げてくる。(2015年11月22日@nortan)